小説

『戦にまつわる干支セトラ』小塚原旬(『十二支のはじまり』)

 背後から飛び掛って来た何者かが舌打ちをした。今時リーゼントの高校三年生、辰(たつ)吉(よし)譲二(じょうじ)だった。龍の代表選手という事で参加しているが、そもそも龍が存在していないので、運営局が用意した選手らしい。
「パートナーがいても有利だとは限らないみたいね」
「姉ちゃん、よう避けられたのう」
 私は眼前の二人を交互に観察した。
「やっぱり、信頼できない人ね」
「あんたが甘ちゃんなだけよ」
 大熊さんの口元が嬉しそうに歪んだ瞬間、私は背後から何者かに羽交い絞めにされた。


「今さ!」
 背中に感じたのは女の子のふくよかな胸のふくらみだった。沖縄特有の訛り、体のあちこちに開けられたピアス、間違いない、沖縄人(ウチナーンチュ)のギャルランナー羽生(はぶ)ひとみだ。
 首都高を時速100kmで走るコンテナの上で私は1対3の窮地に立たされてしまった。嫌な汗が背中を伝った。
「なあに、悪いようにはせんで。ちとばかし寝ててもらうだけじゃ」
 辰吉が風に乱れるトサカを整えながら、こちらへとにじり寄ってきた。
「ごめんなさいね、内野さん」
 大熊さんが申し訳なくなさそうに腕を組んだ。
「別にいいっす。これくらいの事は……」
 私は意識の集中を途切れさせないように、大きく息を吸って吐いた。
「織り込み済みなんで」
 私は辰吉の足元に大きな斥力を生み出した。
「何じゃ、こりゃあ!」
 彼の体がトランポリンの上で跳ねたように軽く浮き上がると、そのままコンテナの後方へと転がっていき、そこに立っていた大熊さんの体に激突して二人はそのまま悲鳴をあげながら落下した。
グラビタスロンのデバイス操作は全て脳波で行う。重力、引力、斥力、何の力場をどこに、どれくらいの規模で生成するか。身体能力は勿論のこと、脳波のコントロール能力も重要になってくる。

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