小説

『戦にまつわる干支セトラ』小塚原旬(『十二支のはじまり』)


 レースは序盤から先の読めない展開になった。
 何と言ってもゴールまで距離がある。いくらGブーツを履いているとは言え、さすがに足だけで進んでいくわけにはいかない。乗り物の使用は禁止されているけど、乗り物を利用して進む事については制限されていないわけで、電車に張り付くことを考える者、高速道路を走る自動車に張り付く者、と作戦はそれぞれだった。
 だけど、何かにずっと張り付いていたんじゃバッテリーが持たない。
 私は、ルートの変更に柔軟性がある高速道路を選んだ。
 潮の香りを含んだ海風を切って、防風壁から車へと飛び移り、また別の車に飛び移る。それを繰り返しながら、東京へと向かう大型トラックのコンテナに飛び移った私に、三白眼の女子大生が声を掛けてきた。
「ねえ、内野さん、私と共闘しない?」
 国体で常に入賞している実力者、大熊(おおくま)寧子(ねいこ)。パンダの代表選手だ。
「悪いんですけど、私は誰とも組む気はないんで」
「まあ、考えてもみてよ。私たち“干支落ち(サーティーンズ)”の選手なんて、最初から連中の目の敵よ。私たちから潰されるわ」
「だとしても、あなたは信用できないわ」
「あのね、多分内野さんは私のことを誤解しているんだと思う」
「ところで、“干支落ち”と言えば、亀山カヲルさんは?」
「相棒と一緒よ」
「相棒?」
「蒼井うさぎちゃんよ」
「え、あの二人って付き合ってんの?」
「そうみたい」
「兎と亀で?」
「そう。二人で一緒にゴールするんだって息巻いていたわ」
「何それ?校内マラソンかよ」
「でもパートナーがいると有利なのは間違いないわ」
 大熊さんの視線が私の目から僅かに逸らされた瞬間を、私は見逃さなかった。私は素早く横に飛んだ。
「くっそ!」

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14