小説

『戦にまつわる干支セトラ』小塚原旬(『十二支のはじまり』)


「お集まりの皆様、お待たせ致しました!2077年の大晦日、遂に歴史が動きます!これまで永きに渡って干支から外されていた動物たち、そして干支に選ばれていながらその順位を不服としていた動物たちが歴史に反旗を翻します!今夜は動物たちの血を引く十五名のグラビタスロン選手たちが動物を代表して、ここ横浜スタジアムから東京スカイツリー上空のゴールまで走り抜けます!ご覧下さい、観客席は各種動物の血族とも呼ぶべき応援者たちが、その時を今か今かと待ち受けております!」
 冗談みたいな話だけど、司会者の言っていることは全て本当だった。
 私自身、自分の遠い祖先に猫の血が混じっていたなどにわかに信じられなかった。だけど、最新の生物学ではそれは普通のこととして受け入れられていて、むしろ自分がサル系以外に何の動物系の血を最も濃く引いているのか、それを調べることがブームにまでなってる。
 つまり人類が登場する以前、猿人より更に昔、あらゆる動物たちの祖先は結構好き勝手に……その、交わり合っていたらしい。色々な遺伝子が交わりあった後に人類の祖先が生まれた、ということはだ、人類は様々な動物のハイブリッドだということだ。
 とにかく経緯はどうあれ、私は大会運営局から猫の代表選手に選ばれ、『干支再選抜グラビタスロン全国大会』に出場する権利を得たわけだ。舞台は東京、公式戦ならではの市街戦、そしてあの憎き甲子園子がネズミの代表選手として出場するとなれば、もう燃えないわけがない。
「今大会には公式戦ルールが適用されます。基本、妨害自由、道具の使用自由の何でもアリです!ただし、傷害に至る道具、つまり武器の使用やそれに準ずる行為、G(グラビティ)デバイスのバッテリー交換は禁止いたします。ゴールは東京スカイツリーの上空に設置されたフープ、これを最初にくぐった勇者こそが、このレースの覇者となるのです。……それではレディ……スタート!」
 どでかい花火が打ち上がり、大歓声の中、私たちは駆け出した。

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