「それより急ごうぜ。甲子も先に行っちまったみたいだし、小栗さんや牛久が先頭を突っ走ってる。大河雫先輩だって猛追してきている」
「そうね……あのさ、さっきのあんたさ、すっごく格好ヴォへッ!」
私は誰かに吹き飛ばされた。
そして響き渡る聞き慣れた声。
「剛くうん!どこ行ってたのよおう」
うう、猪鍋ぼたん……恐るべし。
鳥
空中に投げ出された私の手を握ったのは、憧れの大先輩、小栗(おぐり)駿馬(しゅんま)先輩だった。”銀髪の悪魔”の名を持つ瞬足の貴公子。フルマラソンでも好成績を収めている、学生グラビタスロン界のスーパースターだった。馬の代表選手として参加している。
「災難だったな、内野」
小栗先輩は、私と剛が乗っていたバスの近くを走っていたコンテナトラックの上にいた。
「小栗先輩……ありがとうございました」
照れながら答えた私に、小栗先輩は表情を崩すこともなく、190cmの背中を向けた。
「俺はもう行くぞ」
低音の声が胸の真ん中を直撃する。やばいね、やっぱやばいわ、この人。
「あの……私も一緒に行きます」
ドキドキしながら言ってみた。
「好きにしろ」
小栗先輩は振り向かずに走り出した。
ついていきます!ついていきますとも!
私は小栗先輩の大きな背中を夢中で追い掛けた。
やっぱり小栗先輩は速い。
足の動きは言うまでもなく、反応速度、Gデバイスの力の使い分けも実に絶妙で、動きにムダがなかった。
このまま行けば間違いなくトップ……とは行かないのがグラビタスロンの常だった。