小説

『カボチャの馬車にお邪魔』洗い熊Q(『シンデレラ』『ぶんぶく茶釜』『金の斧』)

 王子を部屋から追い出しバタンと扉を閉めると、彼女は扉に寄りかかり大きなため息を吐いた。
 その途端、彼女の足下がボンッと煙が沸き立つ。煙の中から現れたのは頭をさするぶんぶく。
「……ちょっとぶんぶくさん! 黙っていないとばれちゃうじゃないですか!?」と声を潜め気味に荒げるシンデレラ。
「あいたたた……。しょうがないじゃない! 痛いもんは痛いんだがら!」と涙目のぶんぶく。
「……今日だけ靴に化けていてくれれば、後は何とかなるんですから我慢して下さい!」と言う彼女も涙目。
「わかった、わかったって……割っちゃった私が悪いんだから、しょうがないのはわかってるんだけど……」
「お願いしますよ~。どうしても今日はガラスの靴を履いてきて欲しいって王子様が言うんですよ~。どうにもならないですよ~」と彼女はぽろぽろ泣きながら懇願。
「もういっそのこと言っちゃえば? 割っちゃった、てへっ、てな感じで」とペロッと舌出す、ぶんぶく。
「開き直らないで下さい! あんな大捜索で見つけられた私が、今更こっちのガラスの靴は紛いものだって言える訳ないじゃないですか!」
「それにしても、あの王子も王子だよね~。あんな大捜索するなんていい迷惑だよね~。お遊び紛いのセレブの狂乱かね~」
 思い耽るように空を見上げるタヌキに、若干の怒りを覚えて手が震えるシンデレラ。
 すると背後の扉がこつこつ――ノックする音と共に、王子の声が扉の向こうから聞こえてきた。
「……大丈夫かい? シンデレラ。ちょっと話もあるんだけど……」
「あっ、はいっ! ちょっと待って下さい! 今開けます! (ほらっ、ぶんぶくさん! 化けて、化けて!)」
 ぶんぶくが化けた靴を履き直し、彼女は扉をゆっくり開け王子を引き入れる。
「シンデレラ、本当に大丈夫かい?」
「え、えぇ、大丈夫です……何の御用でしょうか? 王子様」
「式の前に君に話しておきたい事があって……」
「何でしょう?」
「実は……そのガラスの靴の片方、偽物なんだ」
「えっ!?」と思わずドキッとする彼女に、思わずブルッと震える偽物の靴。
「君を階段で追いかけて、そこで靴の片方を見つけた時に……持った瞬間に自分が落として割ってしまったんだ。それで内密に似たような物を作って貰ったんだが……本当にすまない。君の大事な靴を割ってしまって」
「そんなんですか!? えっ……でも、この靴は私の足にぴったりですけど、割ってしまった靴からどうやって再現を?」
「破片を繋ぎ合わせて……それもあるんだが、実際は君の足に合わせて作って貰ったんだ」
「え!?」

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