小説

『カボチャの馬車にお邪魔』洗い熊Q(『シンデレラ』『ぶんぶく茶釜』『金の斧』)

 投げ出されるように落ちる二人の前には、腐り掛けのカボチャが落ちると共にネズミ数匹が転げ走り回っている。
 シンデレラのドレスも一瞬で見窄らしい部屋着へと変わっていた。
 落ちたと同時、脱げ落ちたように彼女の目の前にはガラスの靴の片方が転がっている。シンデレラはそれをそっと両手で拾い上げ、そして感じた。
 ――魔法が解けたんだ。
 そう感じると、今までの全てが夢のように。消え去った幻のように惜しく、切なくなった。
 煌めくような晩餐会。大らかな管楽器団の演奏。優しい王子様。
 本当に夢のようだった。彼女はきゅっとガラスの靴を両手で握りしめていた。
「あれっ!? その靴は消えないんだ? 片方だけならいっそ消えちゃえば良かったのにね?」
 あんたも消えれば良かったのに。ぶんぶくを横目に見ながら彼女はぎゅっと靴を握りしめていた。
「しかし、よく割れなかったね? それ。こんだけ飛んだり跳ねたりして……」と言って、ぶんぶくは素早くシンデレラからガラスの靴をぶん捕った。
「あっ! ちょっと……」
「よく出来てるわね~、間近に見ると持っただけで割れそうな程、薄いのにね~」と言ってぶんぶくは靴を透かし見ながら、こつこつと手で叩く。
「……これ、ホントにガラス?」と言うや否や、ぶんぶくは手近に落ちていた大きめな石に向かってガラスの靴を軽く振り下ろした。
 ――パリンッ!!
 石に叩いた部分から靴は真っ二つ。あっさり粉々に砕け散った。
「あっーーーーー!!」
 森の中に彼女とタヌキの悲鳴が木霊した。

 
 その後。
 晩餐会から行方を眩ましたシンデレラを求め、王子様は探し回った。
 残されたガラスの靴の片方を頼りに。
 国中の女性に靴を履きあわせ、それに合う彼女を求め。

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