小説

『カボチャの馬車にお邪魔』洗い熊Q(『シンデレラ』『ぶんぶく茶釜』『金の斧』)

「あっ! それってガラスの靴!? 和田さんが自慢げに言ってった? ホントにガラスで出来てんの?」
「え? ええ……慌てて階段を下りてきた時に片方は脱げて、そのままにしてきて……」と彼女はふくらはぎをさすりながら答えた。
「でもそれ本当にガラス製? 普通は割れない? というか何故にガラス製? 割れて足に食い込んだりしたら悲惨を通り越して事件だよ?」
「えっ……でも階段を下りたりしたり、さっきまで踊ったりしても大丈夫でしたけど……」
「それにさあ、足の大きさなんて日に日に変わるもんだよ? あんた足のむくみをなめちゃあいけない。事務職、通勤地獄で酷使された青首大根が薩摩大根になるんだよ? 膨れ上がって縁が食い込むよ?」
「それっ大根は大根で、私の足太いって言ってません!?」
「ガラスといって実際はプラスチックかもしれんよ~。あの和田さん製作総指揮だもの、手作りだもの。コストダウン図ってるかものだよ」
「いや、あの人の手作りとは……」
「紛いものよ、紛いもんっ! ……いや、私がメールでそれって紛いもんじゃないの? って返したら、紛いもんのあんたに言われたくないないって返されて! それは何、私が茶釜の紛いもんって言ってるの? それともタヌキの紛いもんって言ってるの?! 私はね、茶釜の紛いもんじゃないのよ? タヌキが化けて失敗して茶釜になったんだからタヌキの紛いもんなのよ!? 生きてるのよ! 息も便意もしてるのよ!? と言うか、紛いもんって言われるのだってすごいショックなんだから! なりたくなってなったんじゃないんだから! 私だってねぇ……」
 ぶんぶくは急に座席にうっぷっしておいおいと泣き始めてしまった。
「あ、あ、そんなに泣かないで下さい……」と突然に泣き始めたタヌキに戸惑ってしまうシンデレラ。オロオロとしながらも慰めようと必死に言葉を掛けようとする。
「あの、あの……もう化けることが出来なくなってしまったんですか?」
「いや、化けることは出来ますよ」と急に元気に起きあがって、敬礼のような挨拶を返すぶんぶく。
「えっ!? 化けれるんですか?」
「そう。化けることは全然……」
 そう言うとぶんぶくは頭に葉っぱを乗せると、くるんと宙返り。
 ぼんっと煙と共に現れた姿は美しいドレスを着たシンデレラその者。
「わっ! 凄い!」と鏡を見る様に目の前に現れた自分自身に驚く彼女。

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