「どう? ちゃんと化けられるんだから……まだまだ、これから」
そう言うとシンデレラに化けたぶんぶくがまた一回り。
ぼんっと煙が立つと現れた姿は先ほどお会いしていた王子様。
「えっ! ホントそっくり!」
またも王子に化けたぶんぶんくが空に回ると煙がぼんっと、続いて現れるは和田さん。元い、大妖精。
「おおっ!」
驚くシンデレラを後目にまたも宙返りのぶんぶく。煙と共に現すは、鉄の光沢が立派な茶釜。
「おおっ!」
その茶釜がかたっと揺れると、ポンッ、ポポポッンと尻尾を先頭に頭と手足が飛び出して元のぶんぶくが顔を出した。
「……よっこらせっと」
引っ込めっていただけかい! とシンデレラは心の中で叫んだ。
「えっ……化けられるのに本来の自分自身には戻れないんですか?」と彼女は伺った。
「そう。元に戻ろうとするとこうなっちゃうのよ」
「えっ……それって、自分自身に化けようとすれば元に戻るんじゃ?」
そうシンデレラが言うと、ぶんぶくは急に座席の上に立ち上がり彼女に向かって指さす。
「それをやっちゃったら私じゃないじゃない!? 茶釜の紛いものが私の紛いものに化けるってことだよ!?」
「えっ!? (自分で茶釜の紛いものって言っちゃってる!?)」
「只でさえ紛いもの扱いされてる今なのに、私の紛いもので生きろって言うの!? いくら姿形が同じだってねぇ、紛いもんは紛いもんなんだよ!? 一文字違いの物真似芸人レベルじゃないんだよ!? ご本人後ろから登場でびっくりレベルじゃないんだよっ!?」
「何を言ってるか全然わかりません!!」
「私だってちゃんとタヌキとして生きたいんだよ~! 太陽光で茶釜が暑くなる生活が辛いんだよ~!」
そう言ってまたぶんぶくはうっぷし、座席をドンドンと叩きながら泣き始めてしまった。
もう何を言っていいのか、何を言ってるのか理解できないシンデレラは、口をあんぐりで唖然として見るしかできない。
その状況の中、突然に馬車外から馬の悲鳴に似た雄叫びが響く。その声に驚き見合わせるように、ぶんぶくとシンデレラは見上げた。
――ボンッと音と共に馬車が煙のように消える。