「いや、実はですね。私、大妖精から、ほら、あなたに魔法かけたおばさんね。急に向こうから、どうしても心配だから最期を見届けてくれないかってメールが来てね。ほら、ねぇ、あの人、見た目通りの心配性の人だから。じゃあ、あんたが自分で見届ければいいじゃんって返したんだけど、どうしても行けないって返してくるんですよ」
「は、はぁ……」
「それにね、そんな大事なお願いをメールのみでお願いしてくるなんて厚かましいじゃないかとも返したんだけど……向こうが言うには急に思いつきで魔法かけて、送り出しちゃって、当事者投げっぱなしジャーマンは流石にと。でも、どうしても外せない用事があるんだって言うの」
「お、思いつき……ジャーマンって何ですか?」
「それが何の大切な用かって言うとね……」
「(……聞いてくれない)」
「外せない異業種交流会が今晩あるんだって。あ、そんな凝った命題つけているけど多分、合コンよ、合コン! うんなもうはっきりと明言しちゃえばいいのにね~、恥ずかしい歳でもないし。というか、いい歳なんだから、外せない用事ってのが合コンでどうなのよって。いい歳どころか偉い歳というか、崇められてもいい歳なのにね~、和田さん」
「わっ、和田さん!? あの大妖精って和田さんって言うんですか!?」
「いつまでも気が若いというか、それが元気の秘密なのか……あのね、和田さんね、SNSの顔写真も随分と盛っているだよね~。原型ねえじゃん! というか、この画像の一部には一ピクセルも元は残ってなくない? と思えちゃう写真なんだよね」
「えすえぬえす? ぴくせる~?」
「まあ、合コンでも交流会だろうが、そんな大事な用事があるって日にね、魔に刺されちゃいました~見たいな勢いで見知らぬ見窄らしい小娘に料金なしに魔法かけてあげるなんて。分割初回の支払いは当社負担! 送料は無料! 設置も無料~! てなくらいに抑えないとビジネスモデルとしては成り立たないって。しかも尻拭いを私に押し付けるなんて、こっちが謝礼が欲しいって言うの! この身体戻しって言うの!」
短い腕を組んでプンプクと膨れっ面で怒り出すぶんぶく。その勢いと訳の分からない言葉を連発するタヌキを、シンデレラは呆然として見てるしかなかった。
すると突然とガタンっと――馬車が軽く跳ね、揺れた。それと共に馬のヒヒ~ンとの雄叫びも聞こえる。恐らくは軽く地面の凹凸に馬車が跳ね上げたのだろう。
その馬の声を切っ掛けにシンデレラは思い出した、大妖精に言われた大事な事を。
「あれっ? あれっ? もう零時過ぎてしまったんじゃ……」と周囲をくるくると見回してしまうシンデレラ。