そこにタヌキが座っていた。ちょこんと、礼儀正しく。
「……へっ??」
何処の底から出したのか、おくびのような声を上げるシンデレラ。
視線が合ったタヌキの身体、どうやら鉄の茶釜で出来ている模様。
びっと敬礼まがいに手を挙げ、挨拶をかますタヌキ。
「あ、どうも今晩は! 貴方はシンデレラさん? 私、ぶんぶくと申しまして。ちょっと事情が色々と有りまして、今回は私が貴方のお迎えをしなきゃいけない事になり、まあなんですか、初対面で色々と御疑いかと感じても、まあしょうがないかなと思いますが。それがね、その事情って言うのが自身も納得が……」
「えっ、えっ、あの、あの! あ、あ、あっ」
迫る時間、追ってくる人影、そして場違いな存在で訳の分からない話をしてくるタヌキ。処理しきれない状況に頭を振ってただ、ただ慌てふためくことしかできないシンデレラ。
その姿に流石のタヌキも状況を納得した様子。
「あ、お急ぎね。運転手さん、とりあえず出して! 大きい通りに出てから行く先を言うから……えっ? なにっ? 私たち酔っぱらってないから! 大丈夫だから! しっかりしてるから! だからとりあえず出して」
しなって打ち付ける手綱の音。警笛代わりの馬の声と共に、勢いよく馬車は出発をした。
軽快に進むカボチャの馬車。なだらかな道で、馬車内も小気味よい振動が居心地が良い。その中に、向かい合わせに座るシンデレラとタヌキ。
唖然と呆然と、口を半開きでただ、ただ見つめる事しかできない彼女。
そして、もう頃合いかなとばかりにタヌキの方から話し掛けてきた。
「もう大丈夫かな? いいかな? 改めまして、私はぶんぶくと申します。ご覧の通りのタヌキと言いたいのですが、ちょっとした不幸な出来事で身体は茶釜という事態になっていまして……まあ、その辺は話せば長くなると言うか、どんたっちみ~と言うか、アンタッチャブルというか……いやまあ、聞きたいなら話さないまでもないですが。聞きます?」
「い、いえ。結構ですっ!」と思わずシンデレラは両手上げ、首を振って拒否した。
それが切っ掛けか今度は彼女の方からぶんぶくに伺った。
「あ、あの……さっき代理で私を迎えに来たって言っていましたけど……どういう事なんですか?」
ぽんっと手を打ち、それをそれという気づきの顔をぶんぶくは浮かべた。