「君の事は以前から存じていたんだ。晩餐会で君を見た時は本当に驚いたよ。まさかここに居るなんて……。あの場から逃げる理由も理解できる。身分の差を案じてのことだろうと」
「王子様……」
「素直に言えば事は収まるだろうに。自分も周囲の事を気にし過ぎ、色々と遠回しをして逆に迷惑を周りに掛けた。あの捜索もそうだ、君だと分かっていながら。……本当にすまない。回りくどい演出も、その偽物の靴も。でも、君を好きなことは偽物じゃない。全ての事が始まる前にそれを知って欲しかった。……それを知った今での、こんな僕に付いてきてくれるかい?」
歯がゆそうな微笑と共に、真剣な眼差しを向ける王子。その姿がとても素敵で輝いて見えた。
「……王子様~」と思わず感極まり、顔を赤らめながら感動するシンデレラ。
「王子さま~」と同じく感極まり、王子を見つめるぶんぶく。
――えっ??
思わず顔を見合わす彼女とぶんぶく。タヌキは、ばっちりと王子とも目が合った。
いつの間にかぶんぶくの変身が解けていた。
固まってしまい唖然とぶんぶくを見下ろす二人。慌てふためくタヌキは手旗信号かはたまた新種のパラパラか、両手をばたつかさせている。
すると突然にタヌキは何か思いついたような顔をすると両手を握りしめ、祈るように天を仰いで喋り始めた。
「わ、わたしは~お前が割ってしまったガラスの靴の精~。……お、お前が割ってしまったのは~どんな靴だい~??」
どんな誤魔化しかただっ! と言うか割ったと聞きながら自分でガラスと言ってるじゃん! と顎が外れるほど呆れ驚くシンデレラ。
「そ、それはこのガラスレザーのパンプスかな~? そ、それともこのカモ皮製特注品オーダーメイドのパンプスかな~? ど、どちらでしょうか~?」
どっちも割れるもんじゃないし! と言うか特注品ちっさっ! お前用なのかっ!? と真っ青になって呆然とするしかないシンデレラ。
もう駄目だと貧血寸前の彼女を後目に、王子はぶんぶくの前に片膝を突いて座り真面目に答えた。
「割ってしまったのは、そのどちらでもありません。私が割ったのはガラスの靴。いや、もっと言えば彼女への信頼かもしれません。代わりの物がない大切なもの。それを私は割ってしまったのです」
えっ? 王子様、こんなのを信じてる!? と驚きながら彼の言葉に彼女は感動する。