なにが言いたいんだ、と思ってアカネの顔を見ると、普通の顔をして弁当のごはんをすくっていた。もうすぐ食べ終わる。
「俺は単に、アカネちゃんのファンになる人は、ロリコンとかアイドル好きとかそういう簡単な理由だと思うよ。推し変とか言うじゃんか。悪いけど、深い意味なく、他の人のファンにもなるようなヲタクの人だよ」
わざと冷たく言うと、アカネは弁当の角についた米粒を丁寧に一粒ずつ挟んで口に入れ、空になった弁当箱に蓋をして、満足そうに僕を見た。
「うん、そうかもね。でも、推し変したって、また同じことしていくだけなんだよ。逆に私も誰かの推し変の次になりうる」
「まぁ、そういうこともあるだろうけど」
「継続するような興味が減って新しいもの新しいものへ追って生きるけど、孤独からは逃れられない。だからって何もしないでいればなお苦しい。それでまた転々として、その日その日の苦しみを忘れるだけの生活をしていく。でもそれもしまいには苦しくなって、死んでしまうほかない、ってなるの」
「あのさ、あんまり縁起よくないことばっか言わないほうがいいよ」
「亮介君も絶対心当たりがあるはず。それまでは気に留めていなかったのに、急に家族が他人に感じたり、友達が別人に見えたり。そのうち、自分のことが分からなくなるよきっと」
「あーアカネちゃんってめんどくさいね。全然かわいいアイドルとかじゃねーじゃん」
僕がちょっと本気で言うと、アカネは、だから言ったでしょ、というような顔をした。
「だから、私は孤独地獄のなかにいるんだってば。亮介君はたまたま今幸運にも忘れてるだけだよ」
そう言って、アカネが弁当箱をしまうと、遠くから、あかねー、という声がした。
「あ、玲子だ。残念、もうちょっと亮介くんと話したかったけど」
「べつにいいよ。あれ友達だろ。行きなよ」
メンヘラなアイドル志望、という印象になったアカネにそう言うと、今度イベントに遊びに来てよ楽しい時間にするから、と笑った。笑顔はかわいくて、思わず、あぁ、と返事をしていた。
なにをくだらない話を、と思ってアカネを目で追っていると、アカネのダッフルコートの後ろ姿が高校時代の教室で見たことのある女の子と重なって見えた。
女の子は、小学校からの男の親友の彼女だった。親友とは毎日一緒にくだらないことを言いながらショッピングモールに寄り道をしていた。親友は、その彼女ができてから彼女とのデートを優先するようになった。
僕に、じゃあな、と言って帰る親友のあとを小走りで追うようにダッフルコートの女の子が遠ざかって行った。
自分も彼女を作ったけれど長く付き合ったわけではなく、親友とは変わらず親友だけど今では思い出す機会も減ってしまった。ひさしぶりに親友の顔がちらつき、あの時、今日彼女と寄るとこあるから、とはじめて断られた瞬間の、少し突き放されたような感覚を思い出した。そしてそれはまた、もっと昔、子供の頃にもあった気がした。