小説

『彼女のせいで』柿沼雅美(『孤独地獄』)

「じゃあ代わりにリアクションペーパー毎回出してくれる?」
「うわ、それはめんどくさい」
 僕が言うと、でしょ、と言ってまた笑った。
「昼休み学食とか行くの?友達と待ち合わせとか?」
 アカネはシャーペンを細すぎるだろと突っ込みたくなるようなペンケースに入れながら僕を見た。
「いや特には。今日はサークルもないし、友達とも授業ほとんどかぶってないから」
「じゃあなんか食べない?」
 誘われたのか、と心の中で戸惑いながら、べつにいいけど、と言って、リュックのチャックを閉じた。
 真っ白いふわふわした毛でできた服の上に羽織ったダッフルコートが、ネットで見た制服の写真のものと同じに見えた。
 階段を降りているだけなのに、なんだか自分がアカネと歩いているのを誰かが笑ったりしないか不安になる。
 学食に入ると席が埋まっていたので、ショップでカツサンドを3つとお茶を買って、カフェスペースの奥の方に開いている丸テーブルに向かい合うように座った。
「よく同じの3つもいけるね、男子のそういうところ結構謎」
「うまいんだよこれ。っていうか弁当なんだ、珍しくね?」
「うん、学食安いもんね、学校来る前に食べたりしてる子も多いよね。私も友達に誘われれば行くけど、それ以外はお弁当かな、なんとなくだけど」
 へぇ、と言いながらカツサンドを齧ると、安っぽく濃いソースの味が広がる。
「一人暮らしでお金無駄にできないし」
「アイドルなんだしこれから稼げんじゃね?」
「だといいけどね、まぁ無いかなぁ。だって、アイドルだってバイトしてる時代だし、イベントとかでも新人じゃ交通費も出なかったりするんだよ?」
「まじで?」
 僕は、パンでぱさついた口の中にお茶を流した。
「まじまじ。それこそサークルみたいなノリの子もいっぱいいると思うよ」
「へぇ、そんなノリでやってるの?」
 聞くと、うーん、とアカネが少し首を傾げてから真面目な顔をした。
「それはちょっと違うかな。私は、私の近くに人が多い方がいいの。だからほら、相手が誰かしらいればこうやって話してみようとも思えるわけだし」

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