小説

『500万の使い途』おおのあきこ(O.ヘンリー『千ドル』)

 由香里は高級ブランドの箱を目にするや、顔を輝かせた。箱を開け、中の指輪を見たときには、それでなくとも大きな目をさらに見開いた。
「これって、これって……」
 由香里はそれ以上なにも言えず、口をあんぐり開けたまま、細かなダイヤが1カラットのオーバルダイヤを取り囲む指輪をただただながめるばかりだった。
 郁夫は内心ほくそ笑んだ。やったぜ!
「郁夫さん……そうなんだ……ここのところプレゼントが少ないなって思ってたけど、この効果を狙ってたんだね。すごい! 効き目抜群! 最高! 由香里、めっちゃ感動ぉぉぉ!!」
 効果って? よくわからないが、感動はしているらしい。ということは……。
「じゃあ、オーケー?」
「オーケー? なにが?」
「え、なにがって、だから、その、指輪を受け取ってくれる?」
「受け取ってくれるって、そんな、あたりまえじゃないの!! こんなすてきなプレゼント、由香里が受け取らないとでも思ったの?」
「え、だって、でも、ほんと? ほんとにいいのか? ほんとに? 結婚してくれるんだね?」
「は?」
 由香里がきょとんとした。
「は? って? だから、結婚してくれるんでしょ?」
「え? なんで?」
「なんでって……だって、これ、プロポーズなわけだし」
「え? そうなの?」
「え? ふつうそうでしょ? 指輪を贈るんだから」
「あ……そうか……」
 由香里が表情を曇らせた。
 郁夫の胸に不安が広がる。
「あの……ダメ……かな……?」
 由香里は指輪を左手の薬指にはめ、手を掲げてしばらくためつすがめつしたあと、郁夫ににこりと笑いかけた。

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