痣のある肌は陽に弱く、夜鷹は太陽がまっすぐの時間に動くことはできない。だから陽の鋭さが和らいだこの時間か、あるいは灰色の雲が空を覆う曇りの日にしか外に出られない。
今日はよく晴れていたから、この時間を待ってやっと外へ出てきた夜鷹の前を、待ち構えたように大きな逞しい体躯の青年が立ち塞がった。
――鷹。
夜鷹は震え上がった。
鷹は、一族の中でも最も強く美しく、そして力を持つ男だ。
なにより、誰よりも夜鷹を疎んでいる。
――おれの名が、夜鷹だから……。
端整な容貌に、一際目立つ鋭い双眸は夜鷹を見下ろして眇められている。
「ようやく出て来たか、出来損ない」
吐き捨てられた言葉に、夜鷹は胸を抉られる。
出来損ない――その通り。
夜鷹は出来損ないだ。兄や弟のように美しくも生まれず、神から授かった『夜鷹』という名にすら釣り合わない。
「まだお前は名前を変えないのか。ずいぶん恥知らずだな」
鷹は、夜鷹の名に自分の名があることが赦せないのだ。
ことあるごとに、この名を名乗ることを改めろと迫ってくる。
だが、名は名だ。この世の真理である神によって授けられたもの。気に入らないからと言っておいそれと変えられるものではない。
夜鷹は震えながら、おずおずと鷹を見上げた。
「そ、それは、無理だ。あんただって、分かってるだろう? おれの名前はおれが勝手につけたのじゃあない。神からもらったもんだもの……」
夜鷹の言っていることは道理だ。いくら鷹であろうと、神の作った理を勝手に変えてはならない。
――そんなことをしたら、どんな神罰が下るか分かりゃしない。
それなのに、鷹はそれを嘲笑った。
「いいや。おれの名なら、神から授かったのだと言ってってもよかろうが、お前のは、言わば、おれと夜と、両方から借りてあるんだ。さあ返せ」