小説

『夜鷹の星』春日部こみと(宮沢賢治『よだかの星』)

 今までずっと笑みを浮かべていた鷹の表情が一変していた。
 真冬の湖の氷のような、動かない無表情で鷹が言った。
「――いなくなるだと? ふざけたことを。おまえ、聞いていなかったのか? 逃がさない、とおれは言っただろう」
 その静かな物言いにゾッとして、夜鷹は猛然と暴れた。
 ――怖い!
 鷹を怒らせたのが分かった。鷹はいつだって、激情を表に出さない。静かに、けれど力でもって捻じ伏せる。そうやって打擲に遭ったものたちを、何人も知っている。
 恐怖に暴れる夜鷹を、痛烈な張り手が襲った。
 キィン、と耳鳴りがした。
目の前に青白い星が飛ぶほど強く横っ面を殴打され、夜鷹は抵抗をやめた。
 くらくらと眩暈がして、四肢を動かせる状況ではなかった。
「夜鷹……逃げようとするのなら、その前におれが殺してやろう」
 残酷な愉悦を含んだ声がして、夜鷹の気が遠のいた。

***

 じゅぶじゅぶといやらしい粘着いた音が、薄暗い小屋の中に響いた。
 村の外れにひっそりとある、夜鷹の小屋だ。
 鷹は気失った夜鷹をここに運んだらしい。
「ほら、どうだ夜鷹。おまえのここはもうこんなに綻んでいる。尻の穴におれの指を突っ込まれてひくひくと動いているぞ。なんて淫奔なやつだ」
 くつくつと鷹が言うが、夜鷹にそれに答える術はない。両手を後ろ手に縛り上げられ、口にはさるぐつわを噛まされているのだから。
犬のように這わされて、尻だけを高く突き出すようにさせられて、鷹に菊門をいいように弄られている。
 ――気持ちが悪い。
 排泄のための場所に指を入れられ、掻き回されている。自分の中を異物が蠢く感触を、夜鷹はぼんやりとした思考の中、そう思った。

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