「逃がすと思うか? 夜鷹。このおれが」
言うなり、噛み付くように口を塞がれた。
仰天した夜鷹は頭を引いて暴れたが、鷹が夜鷹の身を引っくり返してその上に馬乗りになって抑え込んでしまった。額を片手で押さえ付けられただけで、地面の上に磔にされた夜鷹を、鷹がニタリと笑みを刷いて眺め下ろした。
「――ああ、いい貌だぁ、夜鷹。おまえのその醜い顔が恐怖に歪むと、おれはたまらないきもちになるんだ」
恍惚とそう言い放ち、鷹は再び夜鷹に覆い被さった。
「やめろっ、いやだぁっ」
両手を鷹との間に刺し込んで、なんとか距離を取ろうともがいたが、無駄だった。鷹は脆弱な抵抗などものともせず、もう片方の手で夜鷹の両手首を掴んで薄い胸の上で押さえ付け、夜鷹の唇を奪った。
肉厚の舌が夜鷹の口内に侵入し、ねじ伏せるように夜鷹の舌を舐り尽くす。息すらままならず喘ぐ夜鷹を嗤い、鷹は唾液をたっぷりと流し込む。
「んふぅっ、ぐ、んぐ……!」
空気を求めて開いた喉に唾液が流れ込み、その苦しさに夜鷹が喘ぐと、鷹はようやく唇を離してまた嗤った。
「はは、ほんとうにお前は気持ちが悪い。涙と鼻水で本当に汚い」
ごほごほと咽る夜鷹は、息も絶え絶えに震えながら、懇願した。
「なら、もう放っておいてくれ。おれはもう村を出るから。みなの前からもあんたの前からもいなくなる。そうしたら、もう厭な思いもさせないだろう? 醜いおれを見なくて済むんだ。だから、なぁ、もうやめてくれ、やめてくれよぅ……」
ひくっ、ひくっと泣きじゃっくりを上げて、夜鷹は言った。こんなに誰かに喋ったのは、何年振りかと思うほど。それがこんなに情けない内容でなければ良かった。夜鷹は本当はもっといろんなことをみなと喋りたかった。きれいな花、美しい空、澄んだ水の旨さ、春の風の匂い――夜鷹が感じたたくさんのことを、みなと喋りたかった。
ひとりは、もう厭だった。
――そうだ。ずっとおれはひとりだった。村を出て独りになったとて、今更じゃないか。
「もう、やめるんだ。あんたたちに、もうなにひとつ望まない。おれはあんたたちからの、なんにも要らない。だから、もうやめて……おれを、解放してよ……!」
夜鷹は叫んだ。
しゃがれ声の、血を吐くような叫びだった。
はぁはぁと荒く息を吐きながら、夜鷹は涙を流しながら鷹を見た。