小説

『亀裂』伊佐助(『浦島太郎』)

 起き上がってカーテンを開けると紺色の夜空にくっきりと浮かぶ三日月と、それに寄り添うかのように1つの星が隣同士に仲良く並んでいる。「筋太郎さん。幹男は幹男のままで再出発します。僕はノロマな亀だけどそれなりに頑張ってみます!」

 3年後、亀の幹男はトップセールスマンになっていた。勝は度重なった枕営業が発覚してクビになった。奈美は新たな自分探しをする為、語学留学でアメリカに飛んだ。

サーッ、スーッ、サーッ、スーッ。
海はいつものように呼吸している。透き通る塩水、赤く染まる夕空。幹男は三角座りをしながら海を見ていた。
「いつ見ても綺麗な景色だな」
「いつ見ても絶景よね。子供にも早く見せてあげたいな」
 彼の横に座るのは妻の桜子。2人は去年結婚した。海辺で寄り添う2人の姿は幹男が見た、いつかの三日月と星のようだった。
 その1年後、桜子は元気な幹男の子を産んだ。幹男に似て現代的ではない顔の男の子。彼は先祖の名を頂いて息子を「太郎」と名付けた。3人は幸せに暮らした。やがて彼らに訪れる新たな「亀裂」が走るまでは。

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