シェルスは周囲をなるべく不快にさせないようにと心がけて、髪をきれいに結い、丁寧に化粧をほどこし、清潔な身なりをととのえていましたが、いかに体裁を繕っても醜女という事実は寸分もごまかせないのでした。それどころか、繕えば繕うほどに滑稽な印象が生じてくる始末でした。のばしただけの長髪を艶めかせ、素顔のまま大勢の人たちと歓談し、なにをどう着飾っても洒落て見えるじつの姉と自分を比べてみますと、シェルスはしみじみとしたやるせなさを感じざるをえませんでした。
もっとも、見る者にとって同族の人間とは思えないほどに醜い容貌をしている以上、
生理的にうとんじられるのはむしろ道理であり、理不尽な仕打ちに遭っても仕方がないのだとシェルスは受け入れていました。
しかしシェルスだって、なにも好き好んでそのように受け入れたわけではありませんでした。痛む胸のすみっこで、いつか互いに支えあって生きてゆけるような相手と出逢えるはずだという希望をはぐくませながら、忍耐に忍耐をかさねて生きていたのです。
ある夏の早朝のことでした。
寝台から起きあがったシェルスは、あやうく呼吸がとまりそうになりました。枕もとに、透きとおるように蒼い蛇の目模様の平石が置いてあったからです。その平石がなにであるかは、シェルスでなくとも王国に住む者ならば即座に察しがついたでしょう。
(大蛇の平石ではありませんか)
じつは、キーン地方最大のみずうみには古来より魔の大蛇が棲みついていて、百年に一度、若い娘を生贄に求めてくるのでした。大蛇に使わされた小蛇によって大蛇の平石を枕もとに置かれた娘は、つぎの満月の晩にみずうみへ身投げしなくてはなりません。さもなければ、大蛇の呪いによってキーン地方は半年ものあいだ豪雨にさいなまれ、まわりの地方まで巻きぞえになりますから、結果として王国全土が並々ならない混乱に陥ってしまうのです。大蛇の平石はめずらしい石として非常に高く売れるので、生贄の娘の遺族へのいわば謝礼とも言えるものでした。
シェルスは慌てて廊下に出ると、向かいにあるリュクスの寝室の扉をたたきました。
「お姉さま、起きてくださいな」
まもなく扉のすきまから、まばゆいほどに麗しいリュクスの顔がのぞきました。
「朝っぱらからうるさいわねえ」
いつも遅起きのリュクスにしては反応が早かったことに、シェルスはかなりの違和感を覚えました。が、すぐに本題を思い出しました。
「ごめんなさい。大変なことが起こりまして。わたくしの枕もとに、大蛇の平石が置かれていたのです」