小説

『吾が輩は神ではない』洗い熊Q(『吾輩は猫である』)

 そしてそれを知った時、こう考えても不思議ではない。
 そんな人生。楽しいのか。
 よくわかる、よくよくわかる。先を知ってしまって不安が消えても、意気が消沈するのではないかと思うであろう。
 ――だが、そうでもない。
 それを理解して貰うには、二つの事実を知って欲しい。
 まず一つは“予知を越えることがある”という事だ。

 
 外すのではない、越えるという事。非なるものだが、似通った意味合いも感ず。
 以前にこんな事があった。
 毛並みも浮き立ち、からりと晴れ渡る小春日和な気候。日向にごろりと寝ころべば、気持ちよく寝れる日。
 そんな気分良い日にふと見れば、大人しめの幸恵が輪を掛けて大人しく、肩をがっくりと落としている様子だった。
 何か患ったか、それとも女特有の日であったのか。
 何れにせよ、その様子は幸恵には珍しい。大人しいが、周囲に気が滅入った姿を見せる事はしなかったからだ。
 気を使って精一杯の甘え声で、吾が輩がにゃ~んと慰めてみたが、幸恵は軽く微笑み返すだけで覇気が全くない。
 流石にその様子が心配になったが(後々判明したが、酷い女特有の日であったらしい)、吾が輩は力を使わなかった。先を知って、気を揉むことになれば更に厄介だからだ。
 さてさて、それではどうしよう。
 ふと目に止まるはタンス。その家具同士の合間に、幸恵の落とし物があることを思い出す。
 その隙間に幸恵自身も忘れている、擦ってその場で当たりが分かる宝くじが落ちていたのだ。
 後々に本人が見つけて判明するのだが、実は当たりクジ。多くはないがそれなりの金額が手に入る。
 何れは見つけるのだから放って置いたが、意気消沈している今の状況では更に嬉しかろうと思い立ち。
 素知らぬ顔で喰わえ、幸恵の前に持ってゆき落としてやった。
 不思議に感じながらも、ああ、自分が買ってきた宝くじを、吾が輩が偶然に喰わえてきたとでも思ったのだろう。
 それを拾い、すっと目の前から離れ、自室に籠もりおった。
 ――数刻後。悲鳴にも似た幸恵の賛美の声が聞こえきて、ようやく当たっている事実を知ったのかと吾が輩は欠伸をしていたもんだ。
 だがその晩だ。

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