「じゃあ、なにかお香のようなものが焚かれてなかったか?」
「お香? なんとなく煙が漂ってたような気はしますけど」
「それだよ、それ。煙を嗅いだらイッちゃうような、そんなやつ。そういうの使って、トリップさせたんだ」
「いや~、どうかなぁ、そんな感じでもなかったような……。ただ、ほんとにネズミになった気がして」
「だから、イッちゃってたんだって、そのときのおまえ。ヤバイよ。そのうち中毒にさせられて、さんざん搾り取られるぞ。いや、もうすでに中毒かもしれない。おまえ、半休取ってそこに出かけたの、そのときだけか? それとも、何度かそういうことがあったのか?」
「えっ? まあ、その、あの、それから2回ばかし……」
「この短期間でそんなに通ったのか? 半休取って? バカだね、おまえ。もう二度と行くなよ、そこ。ぜったいダメだからな」
「いやいやいや、そんな怪しいところじゃないですよ」
「いや怪しいよ、充分! ヤバイって。もうやめとけって。竹田千秋よりヤバイよ、それ」
「あ! それで思いだした、さっき先輩にお願いしようと思ってたこと」
「お願い? おれに?」
「そうなんですよ、ほんといいとこに来てくれました。ええと、もしよかったら、ていうか、ぜひお願いしたいんですけど、オレ、もうすぐここ失礼しますんで、千秋があとをつけてこないよう、あいつを引き止めといてもらえませんか?」
「おれが? どうして?」
「いや~、とにかくお願いしますよ」
「もう家に帰るのか?」
「そういうわけじゃないんですけど……」
「まさかまた魔術師の館に行くんじゃあるまいな? この時間はもう閉まってるだろ?」
「あ~、いや、その、あそこには行きませんけど……」
「けど?」
「けど、その、ええと、なんていうか、えへへ、じつは、魔術師から直々にお呼び出しがかかって。へへ」
「は?」
「こないだメアド交換したんですよ、魔術師と。そしたらさっきメールが来て、これから家に遊びに来ないかって。へへへ」
「家って……その魔術師の……自宅って意味か?」
「えへへへへ、そうなんですよ。オレ、選ばれちゃったみたいで」
「なんだよ、選ばれたって?」