「ふつうのSMクラブって? そもそもオレ、そういう趣味ないですけど」
「いや、明らかにあるだろ。でもまあとにかく、その魔術師はやめとけ。薬物がらみだぞ、まちがいなく」
「いやいやいや、それはないですって。あ、もう行かなくちゃ。じゃ、先輩、すんませんけどよろしく! あ、いまちょうど千秋がトイレに立ったみたいだから、グッドタイミングかも。じゃ、また!」
智春は部長にだけ軽くあいさつしたあと、そそくさと宴会場をあとにした。
そこは意外にもごくふつうのマンションだった。
智春はインターフォンを鳴らし、そわそわしながら待った。
「はい?」
麗しき魔術師の声だ。
「あ、ぼ、ぼ、ぼく、智春です」
「あら、うふふ」
モニターに映る魔術師の口もとがかすかに意地悪く歪んだように見えた。
智春は股間がもぞもぞするのを感じつつ、開いたガラスドアを抜け、エレベーターを使って目当ての部屋に向かった。
部屋の玄関ドアを開けて待っていた魔術師が、艶めかしい声で言った。
「いらっしゃい」
今夜の魔術師はいつものマントを着ていなかった。身につけているのは、豊満な胸もとを強調するようなビスチェと、流れるようなロングスカートのみ。頭にターバンもなく、黒く艶やかな髪がふわりと胸もとにかかっている。
智春はこみ上げる欲望をぐっとこらえた。
魔術師は智春を生活感ゼロの大きなリビングに案内した。その中心に鎮座する椅子に腰を下ろすと、そこにすわれというように目の前にあるクッションを指さした。
智春は素直に腰を下ろした。
「荷物はこちらに置いてね。ポケットの財布も一緒に。きっと邪魔になるから」
魔術師が思わせぶりな笑みを浮かべて言った。智春は言われた通りにした。
財布が邪魔になるってことは、これからしようとしていることが尻ポケットのあたりとなにか関係しているのだろうか。そう思うと、智春はゾクゾクしてきた。
「じゃあ、まずは少し遊びましょうか?」
魔術師がわきからいつもの杖を取りだし、ぐっと身を乗りだしてきた。智春の目は、いやでも胸のふくらみに行ってしまう。