「あそこの常連客とちょっと親しくなって話聞いたんですけど、どうやら魔術師が選りすぐりの客をたまに自宅に招くとかで」
「招いてどうするんだ?」
「いやいやいや、それはもう、なんというか、訊くだけヤボでしょう、いくら先輩でも」
「おまえ、まさかその魔術師相手においしい思いができるとでも?」
「えええ~、だってほら、女が男を自宅に招くってことは、そりゃもう、アレしかないでしょ」
「今夜招かれたのはおまえひとりなのか?」
「もちろんですよ。じつはこの前、変身のあとステージから降りる直前、耳もとで『今度またゆっくりね、ふたりきりで』ってささやかれたんです」
「つくづくおめでたいやつだな。キャバ嬢とかホステスとかが使う手と同じだろ? あたかもおまえだけが特別、みたいに思わせて、がっぽり搾り取るってパターン」
「いやいやいや、それはないですよ、だって魔術師は水商売の女じゃないんですから」
「いや、おれには同じに聞こえる。それはそうと、おまえがその魔術師とやらの家に行くために、なんでおれがあの女を引き止めておかなきゃならないんだよ? あの女の魔の手がおれにまでのびたらどうしてくれる?」
「いや~、そこをなんとか頼みますよ。だって、こんなチャンスをみすみす逃すわけにはいきませんから」
「断れよ。おれも断る」
「え~、先輩、そんなこと言っていいんですか?」
「ん?」
「じゃあ、あのこと奥さんにばらしちゃおうかなぁ」
「な、なんだよ、あのことって?」
「あのことですよ。学生時代、合宿でミツ子先輩とこっそり物置に――」
「待てよ、学生時代って、何年前の話だよ?」
「でも当時、すでに奥さんは先輩の恋人だったわけで。てことは、浮気ですよね。何年も前の話っていったって、奥さんが聞いたら、どう思うかなぁ?」
「なんだ、おまえ、就職を世話してもらった先輩を脅迫するのか?」
「いえいえいえ、ちょっと頼みごとをしてるだけじゃないですか。ね? いいでしょ? お願いしますよ。かわいい後輩のためと思って」
「言っとくけどな、おまえ、ぜったいいいカモにされてるだけだからな。目を覚ませ。そこマジで危ないぞ。それならいっそ、ふつうのSMクラブに通え」