小説

『白昼カワイイ』柿沼雅美(『白昼夢』)

 だから、先日動画サイトで見つけた父の告白には驚きました。何万アクセスもあって、みんなは面白い独白wwwなにこの一人芝居wwwとコメントしているのを見て、現実味が全くありませんでしたが、画面と同じような姿を今朝公園で見つけたときには、大変戸惑いました。
 近所の公園で、とうに家を出たはずに父は、スーツのネクタイをゆるめ、ロングコートのボタンを開き、ベンチに靴のまま立っていました。父の前には、数人のホームレスと、3匹の猫、見えなかったけれどあそこは蟻も多いんですよ。
 「アップク、チキリキ、アッパッパア……アッパッパア……」
 父の片手のスマホからそんな歌声がBGMのように流れ出しました。
 「アッパッパアアアア……」
 ホームレスの一人が、そんな大道芸に金はださねぇぞー、と言い、大笑いしました。その笑い声で、通勤通学途中の人々が遠巻きに父を見ていたり立ち止まったり、迷惑そうな顔をして通り過ぎたり、後ろからこっそりスマホカメラを向けていたりする人もいました。
 アッパッパアアアアという音声にまた、ホームレスや遠巻きの人がゲラゲラと笑いました。
 「俺がどんなに妻を愛していたか!」
 父が演劇の舞台にいるように声を張って切り出しました。
 「悲しいかな、あの女は浮気者だった! 俺は心配で心配で。懇願したんだ、二度と他の男のことは見ないでくれと! 俺は仕事も手につかなくて手を合わせて頼んだ!」
 また笑い声。
 「子供を生んだ直後のあの女は本当に美しかった!」
んだよ惚気かよー、と通りすがりの男子学生がからかい、そのまま通り過ぎた。
 「俺は今だと思った! この最も美しい女を永久に俺のものにしてしまうのは今だと思った!」
 そして笑い声。
 「用意していた千枚通しを、あの女の匂やかな襟足へ、力まかせにたたき込んだ。笑顔の消えぬうちに、大きい糸切歯が脣から覗いたまんま……死んでしまった」
 なんだぁつまんねぇ作り話だ、とホームレスが手に持っていたワンカップ焼酎をベンチの足元に投げた。
 「俺は女の死骸を五つに切り離した。いいか、胴が一つ、手がニ本、足がニ本、これでつまり五つだ…惜しかったけれど仕方がない…なめらかな、もちもちとした白く伸びた足だった」

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