小説

『白雪姫前夜』伊藤なむあひ(『白雪姫』)

                    13、

 女の子は看板を見付けた。
その看板には『世界の真理を追求する芸術家の集い』と書いてあった。
「やっぱり違ったのね」
 女の子はさして落胆した風も見せずそう呟いた。
 その傍らにはエンジンにキーがさしっぱなしの車があった。
 そしてその助手席には『小柄な小学生なら一人くらいは入りそうな大きさのトランク』が置いてあった。
 女の子は車を運転してみようと思いキーを回してみると車はガタガタと揺れ始めた。
「よく考えたら私、車の運転なんか出来ないわ」
そう言って女の子は車のキーを抜いた。
『小柄な小学生なら一人くらいは入りそうな大きさのトランク』が夢から醒め何かしゃべろうとしたときその振動は止まった。
『小柄な小学生なら一人くらいは入りそうな大きさのトランク』は悲しい目で女の子を見た。
 その目は何かを語ろうとしていたが、本当に語ることはなかった。
 何故なら『小柄な小学生なら一人くらいは入りそうな大きさのトランク』はあくまでトランクだからだ。
「さてと、」
 女の子は自分のやるべきことを正確に把握していた。
「まずはお義母様を探さなくちゃ」
 女の子はそう言って、真っ暗な山道を下っていった。
 男も、7人の芸術家も、しゃべるトランクも、世界の真理も置いて。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10