小説

『咳をしたなら』室市雅則(『咳をしても一人』尾崎放哉)

 テーブルには自分の好物も並んでいる。
 ここは最高だ。
 こいつらは最高だ。
 俺たちは最高だ。
 冷蔵庫からビールを取り出し、ベランダに戻る。
 「三十二郎には小さいけど!」
 「構わーないー」
 柳田が缶ビールを三十二郎に向かって投げた。
 それが綺麗な放物線を描いて、見事に三十二郎の口の中に吸い込まれた。
 喉元を手で押さえる三十二郎。
 どうやら缶ビールが喉に引っかかったようだ。
 眉間に皺を寄せる三十二郎。
 柳田はそれを見て考えた。
 自分なら果たしてどうするだろうか。
 喉に何かが引っかかった時に、どう行動するだろうか。
 柳田も喉元を手で押さえ、眉間に皺を寄せた。
 遠くからパトカーのサイレンが聞こえてくる。
 地上からは野次馬たちの騒ぎ声、悲鳴さえも聞こえる。
 どうするか、分かった。
 柳田と三十二郎は口を少し開け、息を吸い込んだ。
 咳をした。
 その瞬間、NASAの人工衛星DSCOVRが日本列島での爆発を捉えた。

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