小説

『咳をしたなら』室市雅則(『咳をしても一人』尾崎放哉)

 みんなに相談しようと思いながら風呂から上がった。

 いつものスウェットに着替えてダイニングに戻るとテーブルにはポテトサラダ、イカの塩辛、ラザニアが並べられていた。
 どれも柳田の好物だ。
 嬉しそうに柳田が座り、周りも柳田の反応に喜んでいる。
 「どうしたんだ?」
 二郎に尋ねる。
 「作った。好きだろ?」
 「ああ。でも・・・」
 「心配すんなよ。材料は俺が買って来た。金は少しある。最後くらいちょっと豪華にさ」
 「最後?」
 二郎が言いにくそうに続ける。
 「これだけ増えるとやっぱりさ、迷惑かかるだろ?だから」
 柳田が口を挟む。
 「俺も考えたんだよ。もっと田舎に引っ越してさ、みんなで」
 二郎がそれを遮った。
 「俺たちも考えたよ。でもさ、田舎の方が大変だよ。こんな大勢、しかも全員同じ顔。誰も受け入れてくれないよ」
 「じゃあどうするんだよ?」
 「今日で解散して、それぞれで生きていく。まあ何とかなるだろ」
 「それは決まっているのか?みんなで決めたのか?」
 柳田が全員の顔を見渡す。
 じっと柳田を見ている柳田たち。
 代表して二郎が頷いた。
 「そうか。俺は強情だからな。だから俺の意見も通したいけど、この人数じゃ相手にならない」
 苦笑する柳田。
 二人の様子を黙って窺っていた全員も苦笑した。
 「じゃあ最後の乾杯するか?」

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