「じゃ、オレの亀山啓吾の汚名返上案を教えちゃおうかな」
だまされたような気がする。と三十回以上思ったことをまた思う。
狸町佐南の提案は「女にモテること」だった。
そして「軽音部でじゃじゃーんと演奏してキャーキャー言われたら、以後モテ人生決定。人生なんてモテたら勝ちだぜ」と今まで語りつくされた安易な常套句を並べるのだったが「バンドを組んだすべてのやつがモテ人生を歩めるわけがない」と亀山啓吾は暗い気持ちになった。
なんといっても自分はさらさら流れるような髪もなく、ずんぐりむっくり、三角の小さな目を持つ地味顔の亀山啓吾である。バンドを組んだからといってモテ人生を歩めるわけがない。
しかもバンドの練習のおかげで池の縁でぼんやり水面をながめ、空の青さを感じる時間すらなくなった。
グギャングギャングギュワワワワーン、ギュリギュリギュリイイイイーン、鼓膜の振動が馬鹿になりそうな音量の震えの中で「カメ、遅い。そこはウンタタ、ダダダダダン! だよ!」と怒られる。
「ここ、出だし、ちゃんとオレらに合わせろよ」
「ッシャンダダダ、だよ。このッ、の間が大事なの」
「もっとノれよ。音、重いんだよ」
ダメ出しの嵐に首をひっこめる暇もない。
「あーもう、うるさいよ、細かいよ」
亀山啓吾ははスティックを放り出し、吠えた。
「なんだよ、努力なしでウサギに勝てるとでも思ったのかよ。それともおまえのリベンジってそんなに簡単に手に入るものだったわけ? ちがうだろ? あのモッテモテの金持ち坊ちゃまのイケメン兎田俊介を見返そうって言うなら、それ相応の努力が必要だろ? ああ? 違うか?」
狸町佐南はいつもの掴みどころのないにやのや笑いもせず、鬼気迫る形相でまくしたてた。
「狸町くん……」
「オレ、もう狸とか呼ばれるの嫌なんだよ。これからは佐南と呼べ」
「さ、さなん、くん」
亀山啓吾は狸町佐南をまじまじと見た。