小さな三角の眼を精いっぱいまんまるにして、亀山啓吾は狸町佐南の前髪で覆われた顔を見た。
「狸町、前髪を少し切ったらどうかな。そうすればおまえがどんなやつか、今よりわかるようになると思うんだけど」
「前髪を切っただけで、人間性がわかるようになるなんておまえはすごい能力を持っているんだなあ」
「そうじゃなくて、顔が見えないと本気か冗談なのかもよくわからないよ」
「本気でもあり冗談でもある」
「なんだそりゃ」
「要するに、それは聞いたお前が決めることさ」
「ふーん……」
「あ、何? その反応。せっかくオレ様が考えた大どんでん返しの汚名返上案、言うのをやめちゃおうかな」
「一応、聞くだけ聞いてみようかな」
「は? なにそれ。もういいよ」
狸町佐南はポケットに手を突っ込んで背中を丸め、そっぽを向いた。
「あ、あ、ごめん、狸町くん。お願いだ。きみの考えたその、すっごい汚名返上案を教えてくれないか?」
「やだ」
「そんなことを言わないで」
「じゃあさあ、一個だけ言うことをきいてくれる?」
「何?」
亀山啓吾はおびえたように首をすくめた。その姿は、危険を察した亀がさりげなくびょっと首をひっこめる様に限りなく似ていて思わず笑ってしまう。
「ドラム、たたいてくんない?」
「ドラム?」
「軽音楽部、文化祭に出してもらえることになったんだけど、ドラムがこの間抜けちゃって」
「で、でもドラムなんて叩いたことないし」
「だーいじょうぶ、だいじょうぶ、ちゃんと教えるから。それにおまえがドラムをたたくことが兎田俊介をぎゃふんといわせることにもなるんだぜ?」
「兎田を?」
亀山啓吾の目が光る。