「やっぱカメちゃんはバッカだねー。ぜんぜんわかってないんだ」
「何だと?」
「もう一回勝負してどうすんの?勝ったらまた前と同じ、負けても同じだよ」
「どういうことだ」
「勝ったら、やはり卑怯と言われる。負けたら、ほら前回はやっぱり卑怯な手を使ったんだと言われる。どっちにしたって結果は同じ。わかっているから兎田も果たし状を受け取らないのさ」
「ええっ」
「案外、ああみえて、天然君じゃないのかもなあ、兎田は。きみのためにあえて果たし状を受け取らないでいるんじゃないの。あいつなりの思いやりってやつかもな」
ぽんぽん肩をたたいてにやりと笑い、狸町佐南は「じゃあね」と去っていった。
「ぐううううううう」
奇妙な声を出して亀山啓吾はうずくまった。
「あああ」
平手で廊下をべしべし叩く。
「それじゃあ、おれはどうすればいいんだあああああ」
おいおい亀が廊下で唸っているぞ。
はいつくばって何かわめいているみたいだけど。
甲羅干しじゃね?
相変わらず何を考えているのかよくわかんないね。
カメはどうしたってカメだっつーの。
ささやきながら通り過ぎていくみんなに構わず、亀山啓吾は泣いた。
狸町佐南の言う通りだ。結局何をどうしても、カメはウサギに勝てないのだ。
昔話では確かに勝ったのに。
そのせいで亀山一族は捻じ曲げられた推測でおとしめられ、余計な苦労をしょいこむことになったとはご先祖様も予想していなかったに違いない。