「前はしょっちゅう果たし状を持ってきていたのに、最近持ってこなくなったから」
「さすがに、もうあきたんじゃない?」
「だよねー。どうせ、カメはウサちゃんに勝てっこないんだもの。ようやく気がついたか。あはっ。遅すぎ」
遅すぎなもんか、と兎田俊介は思う。
カメのくせになに悟っちゃってるんだよ。
ずっと無駄なリベンジに燃えていてくれよ。
僕が僕らしくあるためには引き立て役のカメが必要なのに、なんで勝手に抜けちゃうんだよ。
「そろそろお話も新展開かなー」
ふんふんふん、鼻歌交じりに去っていく鹿島芽衣のふわふわ揺れる髪を見ながら「ったくどいつもこいつも」と兎田俊介は舌打ちした。
世の中っていつも、筋書き通りにはいかない。
めでたしめでたし、はい終了。それでみんなが納得してくれるわけじゃない。
さてこれからどうしようと兎田俊介は考える。
ここで、急展開、やつらのバンドに入れてもらうというのも面白いかもしれない。
あるいは裏方に徹して、伝説の文化祭を目指すか。
そのためには何をすればいいのかなあ。
いつだって、「今」は楽しむためにある。
ご先祖様たちだって、だましたりだまされたりしながらけっこう楽しくやってきたんだ。
カチカチ山の時だって、狸が背負っていたしばに火をつけて酷い火傷を負わせたことになっているけれど、実際のところはちょっと毛先が燃えたぐらいのものだったし、泥船が沈んだ時はすぐに救助した。
あのかけっこだって、忙しくて徹夜でこっちが赤い目をしていたのに「前から決めていたから」とかけっこを実施してしまったのはやはりカメを甘く見ていたからだが、ちょっと休憩したぐらいでであんなに寝てしまうとは思ってもみなかった、とひい爺さんの爺さんが言っていたと爺さんから聞いた。
「じゃあ、この勝負、ナシね」とカメは言い続けていたが、そのせいで「せっかく奇跡的に勝ったのになかったことにするなんて、やはり何か後ろ暗いことがあるに違いない」と他のみんなに勘繰られてしまったのは計算外だった。