小説

『眠り姫とオフィーリア』乃波深里(『眠れる森の美女』/『ハムレット』シェークスピア)

 待ってないで、自分で行動を起こすべし!急に教師らしい口調でそう言うと、浮橋は言葉を続けた。

 「吉瀬。起きたら、本物のミレーのオフィーリア、観に行こう」
ミレーのオフィーリアは、生きているから。死ぬ前に歌を歌っている場面だって、知ってた?と浮橋はいたずらっ子のようにあたしを覗き込む。
 2人で?と、かすれた声で聞き返すあたしに、浮橋は「馬鹿」と笑う。
 「多田も、佐藤も誘ってさ。お前が誘いたいやつら、他にも呼んでいい。だからさ」
 「惟子。来てくれるかな」
 「大丈夫。佐藤は来るよ」

 浮橋は、優しい顔であたしに微笑む。
 結局、あたしは、多田からも、惟子からも、ただ逃げようとしていただけなのだ。

 「わかった。……起きる」

 
*****
目を開けると、視界に飛び込んできた光が思ったより眩しくて、あたしは軽く唸ってしまったらしい。
 真っ白な天井と、それに反射してより強く光る灯りが、チカチカと目に痛い。視覚と同時に嗅覚も戻ってきたようで、薬品独特の臭いもつんと鼻につく。

はっと、息を飲む音と、バタバタと走る足音。遠くでせんせー!と叫んでいるのは、お母さんの声だろうか。

「……よう」
真上から覗いたのは、ちょっとだけ泣きそうな、困ったような浮橋の顔だった。

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