桜木町の駅が見えて来た。
そして、その手前に人だかりがあるのが見えた。
大道芸か何かだろうか。
呑気で暇な連中だ。
しかし、俺も何もすることがない点では変わらない。
同類だ。
であるならばと連中の輪に加わった。
しかし、人が邪魔で中の様子が分からない。
つま先立ちをしてみても見えなかった。
隣にいたゴマ塩頭の爺さんが声をかけて来た。
「行き倒れだとさ」
俺も年をとれば、いつかこの爺さんのようになるだろうか。
「行き倒れ?珍しいですね」
「珍しいな」
言葉として知っているが、実際にそれを目の当たりにするのは初めてだ。
「見たいですね」
「この人だかりじゃ見えねえよ」
「男ですか?女ですか?」
「見えないから知らねえよ」
冷静じゃないか、爺さん。
「知らないのにここにいるんですか?」
「そのうち見えるんじゃねえの」
それまでいるつもりかよ。
「見えなかったら?」
「うるさい兄ちゃんだな。見てくりゃいいだろ」
「どうやって?」
野次馬たちが幾重もの壁を作っている。
爺さんが笑って地面を指差した。
「股ぐらでも潜っていけばいいじゃねえか」