小説

『粗忽なふたり』室市雅則(古典落語『粗忽長屋』)

 彼らとなら一緒にやっていける気がする。 
 一人が会議室から出て来て、先頭の一人が入って行った。
 俺ともう一人だけとなった。
 もう最終面接に呼ばれるくらいなのだから、きっと俺たちは同僚になるのだろう。
 だから今のうちから挨拶くらいしても良いかなと思った。
 でも、こういった場で話す内容も当たり障りないものだろうし、面接に集中しなくてはならないだろうから、ひたすら黙り、面接の問答のイメージをして時間を過ごした。
 俺がこの会社を選んだ理由。
 俺の長所と短所。
 俺が大学時代に取り組んだこと。
 俺の特技。
 無い頭を使って考え、これまで何度も繰返して来たことを反復する。
 今日の調子は悪くない。
 面接を終えた先頭の彼が会議室から出て来て、俺たちに会釈をして去って行った。
 上手く行ったように見えた。
 いつだってそうだ。
 隣の芝生が青く見える。
 他人の方が優秀に見える。
 俺の前の彼が中に入って行った。
 今日で出口の見えぬ就職活動に終わりを告げるのだ。
 この会社に勤めて、生活をしていくのだ。
 それにしても暑い。
 汗だくで面接を受けるのは印象が悪いのではないだろうか。
 大丈夫だろうか。
 もう一度、タオルで額の汗を拭うと俺の前にいた彼が出て来た。
 俺に会釈をし、去って行った。
 とうとう俺の番だ。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18