まず腕力で負けがひとつ。
マンボウの車はクラウン。
ローンを組んで車を買える財力がマンボウにはあるが、俺にはない。
財力で負けがもうひとつ。
俺はマンボウ以下かも知れない。
逃げるが勝ち。
俺たちは死んだ弟を担いだまま駆け出した。
蜘蛛の子を散らしたように逃げる野次馬たち。
死んだ弟は重いが走る。
ここから逃げる。
目一杯走って、息が切れた。
「なあ、兄ちゃん」
弟が声をかけて来た。
「何だよ?」
呼吸が苦しい。
やはり俺は生きているんだ。
弟も肩で息をしながら俺に問いかける。
「死んでいるのは確かに俺だけど、抱いている俺は一体誰だろう?」
そうだ。
この弟を抱いている弟は誰だ?
この弟に抱かれている弟は誰だ?
俺と同じ顔であるのは弟。
弟と同じ顔であるのは俺。
俺でなければ弟に決まっている。
弟でなければ俺に決まっている。
しかしだ。
俺はこれしか答えはないと思う。
「そんなことは、どうでも良いだろ?」
弟は急な運動のせいで青白くなった顔で返事をした。
「そうだな。どうでも良いな」
「そうだろ」