「どうしたんだよ?」
俺は弟の顔を指した。
弟は顔を突き出し、慌てて左右を見渡した。
「入ってくれ」
「何だよ」
「早く」
弟は俺を玄関の中に引き込むとすぐに鍵を閉めた。
甘い匂いが俺の鼻に入り込んで、俺は咳き込んだ。
「おい、どうしたんだよ?」
弟は一度、大きく息を吐いた。
「昨日の夜さ、博打で大負けしちまってさ。ショバ仕切ってるヤクザに・・・」
「だから電話して来たのか?」
「金がねえって言ったら、でっけえマンボウみたいな野郎に殴られてさ」
「力はあるけど頭はないって感じの奴だな」
「そうなんだよ。金持って来なきゃ、ぶっ殺すぞって言われて困ってんだよ。あれはマジだよ」
一瞬、耳を疑った。
「今、何て言った?何て言われたんだ?」
「金持って来なきゃ、ぶっ殺すぞって言われたんだよ」
俺の心臓が高鳴る。
「ぶっ殺すって言われたのか?」
「ああ、言われた」
俺は間違っていない。
「本当か?聞き違いしてねえか?コロンブスって言われたんじゃねえよな?」
「コロンブス、コロンブス、ブロコンス、ブコロンス、ぶっ殺す。兄ちゃん、ちょっと無理あるよ」
念のためにもう一度、確かめる。
「じゃあ、本当にぶっ殺すって言われたんだな?」
「そうだよ。しっかりとぶっ殺すって言われたよ」
良かった。
「お前、殺されたんだよ」
安心した。
「え、俺、殺されたの?」
弟は驚いていた。
当たり前だ。