小説

『ヴロンド・ウィナース』鈴石洋子(『絵本百物語』より狐者異、「私の直江津」、「古老が語る直江津の昔」)

 さよが見ると、恐れのために文太郎の顔が強張っていた。姉弟は、あの映画会が開かれてから、ここ一年半はマル羽醸造場に行っていない。父に止められ、別の商店へ使いに出るようになり、出兵前も復員後の賢二にも会っていなかった。
 作治は言った。
「袋の中が動いてたんだわな。病院裏でおらがおっかねえと思ったのも、今になって考えれば袋が気になったからだ。捨て子があったって話、ここ最近聞かんだろ?」

 その晩、さよは寝付けなかった。
 私の祖母になるずっと昔の話だ。

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