「と思います。雪のせいで、すっかり見慣れない感じになってしまって……」
「まあ、そうですよね」
確かに、いつも見ている光景とはがらりと変わってしまっている。雪が積もると、こうも印象が変わってしまうものなのか。
彼女は寮は近くにある、といったわりには、すでに三十分以上歩いているような気がした。「近い」という言葉に個人差があることも知っているが、それにしてもなかなか着かない。鼻の先が冷えて痛い。
「どのへんでしょうかね。見えます?」
「あ、そこを右かもしれません」
「わかりました」
地下駐車場の前を通って、右折する。
彼女も寒いのを耐えているんだ、男の自分が弱音を吐いてどうする。自分が耐えなきゃ、彼女を救えない。そう思って、気合いを入れて彼女を担ぎ直す。
彼女は肩に手を回して、しがみついている。その手は氷のように冷たくなっていた。歩いて温まった体から、体温が奪われていく。
「次を左です、たぶん」
「はい、左ですね」
言われた通り、左折する。吹雪が徐々にひどくなっていくような気がした。
「もう少しまっすぐいって……それから、三叉路になっているので、真ん中の道……だったような……」
「真ん中ですね」
無言で歩いているのもなんとなく気まずくて、気を紛らわせるためにもなんとか話題をひねり出した。
「なんかあれですね、天気がこんなだと、あったかいお鍋とか食べたいですね」
「私、お鍋苦手なんです」
「えっ、そうなんですか・・・」
「アイスクリームとか、かき氷とかが好きです」
こんな状況で、よくそんなことが連想できるものだ。聞いているこっちが寒くなってくる。よっぽど好きなんだろうな、と思いつつ、別の話題がないか必死に頭を巡らせた。
「あれ、ここじゃないですね、ちょっと間違えました」