小説

『YUKI-ONNA』 植木天洋(『雪女』)

 もうすぐ確認が終わるというところで、スマホが鳴った。見てみると、画面には「母親」の文字。
 なんだよ、こんな時に。
「もしもし? かあちゃん?」
「うん、きこえとるよ。かあちゃんよ」
「わかっとるって」
「雪、そっち、すごかって? どがん(どんな感じ)?」
「すごか。ヤバか」
「こっちも昨日降ったとよ。東京の方がすごかって、ニュース見てびっくりしたー。大丈夫ね?」
「あー、うん。それが、まだ会社におっとさ(いるんだ)」
「まだ会社ね? それで帰れるとね? ニュースで電車止まったて言うとったばってん」
「うん。やけん(だから)、今夜はここにとまるかもしれん」
「寝るところはあるとね?」
「床に寝るしかなかたい」
「風邪ひかんごとよ」
「うん。でも、もうすぐしたらちょっとやむごたっさ(みたいだよ)。そしたら、近くのビジネスホテルとかにいくかもしれん」
「そうね。気ぃつけてね」
「うん。母ちゃんも風邪ひかんごと」
「うん、ありがとね」
 スマホを切ろうとしたら、母親が最後に言った。
「雪女に気をつけんばよ(つけないといけないよ)」
「雪女? はぁ? 何ばいいよっとね。そがんと(そんなもの)おらんやろ」
「おるって。こがん時に、よう出るとよ。若い男を迷わすけんね」
「はいはい」
「きれいなおなごに気ぃつけるんよ」
「うん、わかったって。気ぃつけるよ」
 適当に返事を返して、スマホを切った。
 雪女?

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