彼女は右足をさすって具合を確かめているようだった。ちらりと見えた細い足首にどきりとするが、そんな場合じゃないと自分を戒める。
「僕、背負いますよ」
「でも、大変ですよ、雪もすごいですし・・・」
「大丈夫です、体力には自信あります」
「そうなんですか」
「もし嫌じゃなければ」
「じゃあ……お願いします」
彼女が安心したような不安なような、なんともいえない声音で呟く。彼女に背中を向けてしゃがみ込むと、少しして、彼女が体を預けるのを感じた。
彼女はパンツスーツを着ていたので、背負うのにそう苦労はしなかった。柔らかい感触に、またドキドキしてしまう。彼女は思った以上に軽く、そう苦労せず寮までたどり着けそうな気分だった。
吹雪はさらにおさまって、少しだけ視界が開けた。それでもやはり雪は顔に吹き付けてくる。一歩踏み出すごとにざくざくと足音がする。幸運なことにまだアイスバーン化していないので、滑ることはない。踏ん張って歩いているうちに、すこし体も温まってきた。
「目印になる建物とかあります?」
「ええ、〇〇建設っていう会社の看板がでているところのそばなんですけど」
聞いたことのない会社だった。いつもランチタイムになるとこの辺をうろうろとして食事ができるお店を探しているが、そんな会社の看板には気づかなかった。
どのくらい歩いただろう。少し足が痛くなってきた。腕時計をみたいが、手が放せない。建設会社の看板は見つからない。
「寒くないですか?」
「大丈夫・・・です」
彼女のか細い声が耳元をくすぐる。思わず邪念を抱きそうになって、またかぶりを振った。
いくら大雪の中であったからって、二人っきりだからって、そんなにうまくいくはずがない。寮で一晩眠って、お礼を言ったらさようなら、だ。きっと二度と会うことはないだろう。
「近くまできてます?」