寮。仮眠室。気が遠くなるような雪道を歩いて、雪はますます降り積もっている。運行しているかどうかわからないバスを期待するより、いいかもしれない。決断をするのに、それほど迷わなかった。なにより、この美人とまだ一緒にいたいという下心もあった。
「じゃあ、お願いします。すごく助かります」
ほっとしてそう言うと、彼女はにこりと笑った。とても綺麗な笑顔で、死にそうに寒いというのにドキリとして、顔が火照ってしまいそうだった。
「じゃあ、いきましょう」
そう行って、彼女と一緒に歩き始める。歩きながら、簡単にお互いの自己紹介をした。彼女はコンピュータ関係会社の事務をしているとの事だった。
雪の中で歯を鳴らしている自分と違って、彼女はすらりと背筋を伸ばして、降り積もった雪の上をまるで滑るように歩いていた。
心細いと言っていたわりには、案外平気そうだ。
とにかく、この天気だ。一人より二人の方が心強い。どちらかというと、自分の方が助けられたような気分だった。
吹雪はマシになってきたし、最初の頃より視界もよくなった。しかし自分たち以外誰一人として歩いていないし、車もない。
「よかったら、カイロ、どうぞ」
ポケットに入れていたカイロが、いい具合に温かくなっている。彼女はちらりとそれを見てから、顔を振った。
「いりません。大丈夫です」
「でも、寒いでしょう?」
「平気ですから」
「あ、そうですか」
行き場をなくしたカイロを再びポケットにつめて、指先を温めながら雪の中を歩く。
しかし、少しして彼女がガクリとよろけた。彼女がよろよろと雪の中に座り込みそうになるのを、あわてて駆け寄って支える。
「大丈夫ですか?」
「え、ええ」
彼女はつらそうな顔をして、右足を見つめていた。ヒールが折れてしまっている。
「歩けますか?」
「足をくじいてしまったみたいで」