「だれか、いませんか」
風の合間に、細い声が聞こえる。
「大丈夫ですかー?!」
声を張り上げて、たずねてみた。
「ああ、よかった、どこですか?」
「僕、ここにいます!」
「見えないんです、吹雪がすごくて・・・」
周囲を見回して、目印になるようなものがないか探してみる。有名チェーンのカフェがあったので、その店名を叫んだ。
「その前にいます、場所、わかりますか?」
「わかります! なんとかいってみます」
さらに吹雪がおさまって視界が少し晴れてくると、サクサクと雪を踏む音がして細いシルエットが見えた。
「すみません、一人で心細かったので・・・」
一瞬で目を奪われた。現れたのは二十代くらいの女性だった。モデルように小さな顔に、そのわりに大きめの瞳と長い睫毛。すらりとした鼻、こぶりの唇。唇は、薄い桜色だった。
綺麗な長い黒髪は、風に吹かれているはずが一筋も乱れていない。真っ白なコートを着て、白いパンツスーツ。靴は雪に埋もれて見えない。雪の中を歩いたせいか青白い、透き通るような肌をしていた。
「大丈夫ですか?」
「ええ、なんとか」
見れば見るほど美人だ。しかも、好みのタイプ。だけど、手が届かない、そんな高嶺の花だ。
――きれいなおなごに気ぃつけるんよ――
思わず母親の言葉を思い出したが、頭から振り払った。馬鹿らしい。それよりも、今はこの吹雪をどうやって切り抜けるかを考えなければ。
「あ、あの、僕は駅に向かっているんですけど、よかったら一緒にいきませんか?」
「ありがとうございます。でも、私の会社の寮が近くにあるんです。仮眠室もあるので、そこへ向かいたいんですけど・・・」
彼女は申し訳なさそうにうつむいて、少し小さな声で言った。
「さっき電話したら仮眠室がまだあいてたんです。それに、本当は会社の人以外入れちゃダメなんですけど、今日はこんな日だから、あなたも良ければ。あの、どうですか?」