小説

『YUKI-ONNA』 植木天洋(『雪女』)

 窓がガタガタと揺れて、まるで老婆の絶叫のような風の音が響きわたっていた。外を歩いていた時より、吹雪はずっとひどくなっている。目を凝らすと、向かいの方に、彼女の言っていた建設会社の看板が大きく見えた。
 スマホの時計をみると、朝の五時。まだ寝ていると思っていたが、母親を呼びだしてみた。予想に反して、数回のコールであっさりと出た。少し、寝ぼけた声をしている。
「なんね? どがんした(どうした)? 無事帰れたとね?」
「かあちゃん……かあちゃん、おれ……」
「なんね、気色ん悪か」
「雪女におうたごた(会ったみたい)」
「はあ?」
 母親が、あきれたように声を出した。
「雪女なんておるわけなかたい、なんば言いよっかね、こん子は」
 雪女に気をつけろって言ったのはかあちゃんじゃないか!
「どがんかしたと(どうかしたの)?」
「……なんもなか(なんでもない)」
「そう? それで、家には帰れたとね?」
「いや、親切な人がおってね、泊めてもらうことになった」
「そりゃ良かったね。ちゃんとお礼ば言うとよ」
「わかっとーて(わかってるって)」
「じゃあね」
「うん」
 窓の外の吹雪はますます強くなってきた。僕はそこに彼女の姿が見えないかじっと目を凝らした。

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