「おーい、大丈夫かい?」
ふいに大人の男の野太い声が聞こえて、そちらに目を凝らした。
すると、防寒着を着てもなお寒そうに体を抱えている、太めの男性がいた。
「こんなに吹雪の中、なに歩いてんの?」
「いや、その……」
「窓から見えたからさ。これから雪がひどくなるっていうから、外歩くのは無謀だよ。仮眠室があいてるから、おいでよ」
見るからに人の良さそうな彼はそう言って、分厚い手を振った。僕はそれに導かれるように、彼が迎える建物に歩み寄った。もちろん、足下に積もった雪が歩みを阻む。なんとか彼の元にたどり着くと、大きな手で背中を撫でてくれた。
「いあや、お疲れさま。運がいいね」
「はあ、まあ」
彼はバンバンと背中を叩いて、雪を払ってくれた。
背中……を?
背負っているはずの彼女を振り返ると、そこには雪の塊があった。
「雪だるまなんか連れて、どうかしたんかい?」
男性が笑いながら僕をエントランスへ導く。
「え、彼女は? ここに女性がもう一人いませんでしたか?」
「何を言ってるんだか。ほら、早く中に入って」
不思議に思いながらも建物の中に入った時は、久しぶりに満足に息をしたような気分になった。ロビーはしっかりと暖房がきいていて、電気もついていた。
暖かさと光がこんなにありがたいものだとは、普段なかなか思わないことだろう。僕は泣きそうになりながら男性に連れられて食堂に通された。
そこでは「ありあわせもの」と言う名の豚汁とおにぎりが用意されていて、すすめられるままに遠慮せずそれらで胃袋を満たし、体を温めた。
「これからもっとひどくなるって言ってたよ。少しおさまったのは、フェイントみたいなもんだね。あんた運がいいよ」
男性は豪快に笑って、湯気の立つ麦茶をわたしてくれた。
僕は彼に丁重に礼を言い、案内された仮眠室のドアを開けた。冷えて濡れたコートをぬいで、ネクタイをゆるめる。部屋はやはり暖房がきいていて、快適だ。