幾つもの描いた絵が重なって埋め尽くされていたと思った暗闇。
座って見る角度が変わると幾つもの隙間が現れ始めた。
全てを埋め尽くした訳じゃなかった。白い背景が薄い隙間から、そして点から暗闇に輝くように見える。
点は光に。隙間は線に。
もう一つの世界がそこにあった。
光は幾万個の星になって輝き、渦を巻くように集まり、暗闇に綿飴のように浮く星空になった。
その夜空の下に光の線は線路を。そして小山を描く。
小山の山腹にはトンネルの出口らしき半分の楕円。そう見えたらそこから先ほどのクレヨン汽車が顔を出してきた。
頼りない風貌で、でも力強くて元気に走る汽車。目一杯に色とりどりの煙を出しながら。
敷かれた光の線路は夜空に向かって伸び、浮かぶ白く輝く銀河へと続く。
煌めく星空の中を光の線路に乗って走り続けているクレヨン汽車。それが窓には写っていた。
――僕は目頭が熱くなった。
美しいからだけではない。もう何も無いと思いこんでいた景色に、無自覚に望んでいた光景があってくれたからだった。
シーズー男は窓台に肘を突きながらしみじみと言った。
「私は夜景が好きなんだ。精一杯に輝く、幾億年前の光たち。そして去って行くのではない、向かって行くという景色。……ここには全てが詰め込まれている」
「ええ本当に……素敵な光景です……」
「なあ、ムーさん」
「はい?」
シーズー男は笑顔になった。目を細め、大きな広い口を小さく開け口元を上げて。
犬の笑顔ってこんなに可愛いんだと思う。その顔でシーズー男は言った。
「描く物が尽きたと思ったら、今度は描く所を探せばいい。……キャンバスは白い。誰がそんなことを決めたのかな?」
――僕はそこで目が覚めた。
うっぷして寝ていた僕は顔を上げた。
カウンターで寝ていた僕。
ぼやける目で周囲を見れば、目の前には格子型の棚に綺麗に並べられて色とりどりの柄のティーカップたち。