小説

『白い銀河』洗い熊Q(『銀河鉄道の夜』)

 その後は同じことが繰り返された。
 シーズー男の思いつきのような要望に応え。
 何も無い白い世界の車窓に墨絵を描く。
 そして何かにつけて描いた風景の世界に車窓から押し出されたかと思うと。
 また客車へと戻されてくる。
 幾つも幾つもの風景を僕は描いた。
 時に粛然とした竹林を描き。
 時に豪快に落ちる滝を描く。
 または幻想的な雲海に包まれる山脈を描けば。
 何の変哲もない畑のたたずむ民家を描く。
 繰り返されるこの出来事に飽き飽きしてきたのはあったが。
 ――絵を描くことは楽しかった。
 ただただ思いつくままに、筆を走らせ無心になって絵を書き続けることが初めてだったからも知れない。
 描くことが面白くなってきた。
 そう自分が感じ始め。
 もうこの出来事が何度繰り返されたか忘れた頃。
 客車に戻された僕が意気揚々とシーズー男に先に声を掛けた時だった。
「さあ、今度は何を描きましょうか?」
「お? ムーさん。楽しそうだね~」
「へへ……。何だって描きますよ」
 そう言った僕に、シーズー男は腕組みをしながら訊いてきた。
「ところでムーさん。今まで君は何を描いてきたんだい?」
「はっ?」
「だから、何を描いてきたんだ?」
「なにをって……こっちの窓を見れば僕が描いてきたものが見えるじゃない……」
 そう言って僕は振り返って背後の車窓を見た。
 その窓に描かれていたもの。
 それは真っ黒な世界だった。

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