田中は笑い、土煙を木々もろとも光線で薙ぎ払った。
その日、「夢」は唐突に叶っていた。俺は出来るんだ、とヤケクソ気味に繰り出した超常の技が、いつも描いていた通りに。涙が出た。とにかく嬉しくて、楽しくて、それからは文字通り夢中であった。かつて感じたことのない高揚感が、胸の内側を「これでもか! これでもか!」と叩き、それに応えるように体が動いていく。
指揮棒のように指を振ると、虹色の極光が四方八方へ尾を引いて飛来して、着弾後に大輪の花を咲かせて地面をめくった。
田中は感動に震えた。
もはや、その顔に一片の憂いもない。子供のような無邪気な笑みが、自身の放つ色とりどりの光を受けて輝いていた。
アスファルトもコンクリートも鉄筋も、田中にかかればバターやゼリーと大差はない。気功、念力、魔法、超人的な体術、すべてを試し、すべてが想像以上であった。
住宅街はやがて平地になり、平地はやがてクレーターと化した。
付近に何もなくなったところで、田中はようやく動きを止めた。そこで初めて周囲を、迷彩をまとった集団が包囲していることに気付く。頭上からは複数のヘリが轟いているのに、その場は静まり返っているようだった。
集団の一人が、脂汗をぬぐって言う。
「―――化け物め」
そして一斉に銃口を向け、田中は――――
==○○年後==
「っ波ぁぁあああ!」
壁がはがれ天井の抜けた、廃墟のような建物の一室で、少年タカシはそう叫び、両手を突き出した。
当然、何が出るわけでもないが、タカシは大真面目に首をかしげている。
その後、数回、数十回と繰り返してみるが、現実は覆らなかった。
「タカシー? いつまでボロ家にいるの、ごはんよー!」