小説

『I am 救世主』亀井ハル(『桃太郎』)

「動物園から逃げてきたんです」
 羽が抜け,痛々しいがこいつは雉である。あまり動物園でも目立たない(ハッピーバードコーナー)とぼろっちい木の看板が掲げてある場所にいた雉である。私はこの場所がなんか好きでぼろっちい木でできたベンチに座ってぼーっとしていたので覚えていたのである。私,えらい!
「動物園ももう駄目で,ほとんどの仲間が食べられてしまいました」
 雉は私を真正面に見据えながら言う。懐中電灯に照らされた光る眼が4つ。4つ?なんじゃこの化け物。こいつが化け物か?いや違う,背中に何かいる。
「あっ、この子は猿山の猿の死体に隠れてなんとか生きていたのを私が上空から見つけて連れてきたんです」
「はじめまして,お猿さん」
 猿は怯えた潤んだ目で何も言わずにこちらを見ている。この感じ,何だか懐かしいわ。
「もう大丈夫よ,とにかく生きてるんだもの。それがすごいじゃない」
 小猿に言ってんのか,自分に言い聞かせてんのか分からないくらい演技チックに私は言った。
「動物園を襲った生き物を見たのか」
 悟りイヌ様が私の不安等掻き消してくれるくらい冷静に質問する。
「いや,私も怖くてほとんど見ていません。ただ恐ろしく力が強くて,しかも大量にいたんです。赤いのや青いの,それから角が生えているのもいました」
 私はここで急にガチャピンとムックが頭の中に浮かんで,こんな可愛い輩なわけねえだろ。でもよく見ると怖えけど。なんて1人ボケ・ツッコミをやってしまった。甚だ恥ずかしい。面白いとかは1ミリも思っていません。思っちゃったんだからしょうがない。気持ちを切り替えて私は言う。
「これからどうするか,みんなで考えてみようよ」
 雉はやはり私を見据えて言う。
「どうしようもありません。女の子が一人と犬,猿,雉ではあんな化け物なんてとても退治できません。逃げるにしても,みなさん飛べませんし,私は手負いですし…」
 なんか妙にペシミスティックな雉にむかついてくる。
「だからってまあ,このまま死ぬのを待つのも嫌なわけだし。食料を集めながら逃げて,仲間を探すのが現実的なラインじゃないかな」

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