小説

『霧の日』化野生姜(『むじな』)

母と姉が他人だと感じるようになったのは…。
自分たちと違う、異質な者だと思いだしたのは…。

しかし、内心ではわかっていた。
それは随分と前から感じていた。

自分は、女性の顔がわからなかった。
幼稚園の保母さんも、道を歩く着飾った女性も。
みんな、みんな、顔がわからなかった。

そして、それがひどく恐ろしく感じられた。
彼女らを、恐ろしく感じていたのだ…。

…そうして、俺は大人になった。

でも、状況は変わらなかった。
…そして、俺は妥協をした。
時間が俺を変えてくれた。
この異常な光景を少しずつ受け入れることができるようになったのだ。

そうして気がつけば、俺は結婚もし、子供も二人できていた。
なれてしまえば、そう悪くもない。
顔が分からないくらいが、人間ちょうどいいのかもしれない。
そうして俺はビールを飲んで、家の中でのんびりと枝豆を食べていた。
夏のさかり、雨でも降っているのか外からひんやりした空気が漂ってくる…。

もうすぐ息子が塾から帰って来る。

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