小説

『霧の日』化野生姜(『むじな』)

その途中で孫は聞く。

「あれは、何か」と。
俺はただこう答える。
『…坊、あれは「むじな」だ。人を騙す獣だ。』…と。

俺は、爺さまと同じことを言おうとしているのか。
そうして、家に帰って何事も無かったかのように暮らすのか。

俺はなぜか、そうしてしまうことがひどい悪行のように感じられた。
なぜかは分からない。ただ、このままではいけないような気がしていた。

そうしていつの間か、俺の足は女のもとへと向かっていた。
孫も何も言わずに俺の手に引かれ、ついて行く。
そうして女のところへいくと、俺は意を決して女に聞いた。

「もし、あなたを以前どこかでお見かけしませんでしたか?」

…しかし、女は何も答えない。
顔を覆ったままだった。

そうだろう。女に話しかけたって無駄なのだ。
表情がわからない。どうなっているかもわからない。
この女だけではない。他の女だって同じはずだ。
俺はそんなことを考える自分に、ひどい苛立ちを覚えていた。
そうだ、だって俺は…。

しかしそこまで考えたところで、俺は自分の至った考えにぞっとした。

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